2009年5月28日

田舎暮らし・その2

 「寒茶」で有名な、「旧宍喰町久尾(くお)」の話をします。

 20年ほど前のことで、ボヤーッとした記憶を辿りながらの話です。

 その頃、仕事で定期的に「久尾」を訪問したことがありました。

 美波町から片道1時間30分ほどの行程で、(寒茶の「か」の字も知らない)当時、延々と続くつづら折りの細い山道をうらめしく思いながら、山の奥へ奥へと、悲鳴を上げそうなポンコツ自動車を走らせたものです。

 ところがある日のこと、やっとの思いで村に辿り着いたにもかかわらず、家にいるはずの主が何処にも見あたりません。

 どうしたものかと途方に暮れていたところ、ふと見上げた段々畑に人影が見えたので、ワラをもすがる思いで駆け登り、農作業中のおばあさんに、尋ね人の不在を告げ、行き先を知らないか聞いていた時です。

 突然、おばあさんが、「まかしとき」とばかりに手を口にあて、「○○さーん!」と下の集落に向かって叫び始めたのです。

 一瞬何が起こったのか理解できませんでした。

 しかし、おばあさんの声が、四方を山に囲まれ、すり鉢の底にへばりついたような村全体に行き渡った現実を理解するにつれ、「ああ、こういうこともあるんだ。」と納得せざるを得ない、不思議の国に迷い込んだアリスのような気分になりました。

 まさに、自分の知らない日本の原風景を垣間見た思いでした。

 結局、尋ね人に会えたかどうかも覚えていませんし、以来久尾へは行っていないので、そのほかのことはほとんど思い出せませんが、谷底に向かって叫ぶおばあさんの頼もしい姿と、まるで自分が「日本昔話の一場面」にいるような、とても居心地のよい懐かしい感覚は、今でも深く胸の奥に刻み込まれています。

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