2009年11月11日

港で老漁師の告白を聞き、あわいで迷子になる

大浜海岸からそのまま港を散歩していると、

網を繕う漁師さん(「老人と海」のスペンサー・トレイシーみたいな)が

自転車に乗った中年女性に向かって、

「漁師でも、船酔いはするもんだ」と告白するのが聞こえてきた。

何か、ものすごく嬉しくなった。


そのまま魚市場の建物の横から港の外へ出る。
開店前の食堂の入り口に、遊園地の回転ブランコのようなものが回っていた。

ブランコに乗っているのは魚の干物。

変なもんだな、と思いながらしばらく眺めた後、「あわい」へと入り込もうとした矢先、

いきなり背中に声を掛けられた。

「店に用事があるんだったら、きいてあげるよ。」

おばさんがこちらを睨みつけていた。

「いや、干物の機械が面白くて、ついみとれてました。」

「うん、和歌山で買ってきたそうだよ。」

「面白いですね。」

「うん、よく乾くそうだ。」


そのまま歩き出すと、日和佐の「あわい」は迷宮だった。

いくつかの狭い通りが塀や家に突き当たるたびに、

当てもなく右か左へ曲がる。

曲がるたびに、ちょっとした不思議なものに出会う。

道端に置かれた赤い「消火器具庫」。


軒先に放置されたアイスクリームの冷蔵庫。井戸。



普通の民家が並ぶ間に、ポツンと酒屋があったり、表具屋があったりする。
何が目の前に飛び出してくるかわからない。
そうしているうちに、何もかもが面白いものに思えてくる。
道を横切る猫の尻尾でさえも、特別な愛おしいものにみえてしまう。
変哲もないたたずまいの漁村の路地が、
ギリシャかどこかの白い迷路のようにみえてくる。
われに返ったのは、町並みに不釣合いな役場の建物に出くわしたときだった。



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